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第一章◆砂漠の帝国
「暑すぎる…なんだこの国は、おかしいんじゃないのか」
ガラガラと音を立て馬車が揺れる。
美しい黄金色の髪を強い日差しに反射させ、ハイドは今にも舌打ちをしそうな声色で呟いた。
溢れ出る汗を拭い、濡れて張り付く髪を鬱陶しそうに掻き上げる。
「そりゃあ砂の楽園とまで呼ばれる大砂海帝国ですからね」
「何が砂の楽園だ。砂しかないだけだろう」
同じ体感温度にも関わらず自分の横で涼しい顔をして呟く従者のオリヴァーに、より一層ハイドの苛立ちが増した。
「殿下、口が過ぎますよ。何の為にエスタシオから遠路はるばるここまで来たのですか」
あまりにも攻撃的な口調へと変貌を遂げかけている主をオリヴァーは窘めた。
冷静かつ的確な注意を受け、ハイドは眉間の皺を深める。
鋭い目にどことなく冷たい雰囲気の端麗な面差し、母国では若い娘が桃色の溜息をつかずにはいられない美丈夫…そんな顔が今ではただの凶悪面だ。
その凶悪面を横に向け、馬車の窓から外を睨みつける。
「…全く忌々しい、何故俺がこんな所に」
「そりゃあ大砂海帝国の王子が是非ともハイドランジア殿下と縁を結びたいと仰ってくれたからでしょう」
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