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馬車の扉が開かれ、内心いやいやながらも所作だけは完璧に地面の絨毯へと足を下ろす。
黒地に金と青の刺繍が施された絨毯はそれは見事なものだ。
「ハイドランジア・ペトラ・エスタシオ殿下、遠路はるばるこのような辺境の地までお越しいただき光栄至極に存じます。私は王太子のアリージャと申します、お見知り置きを」
「エスタシオ王国第一王子のハイドランジアで御座います。本日は私めの為にこの様な盛大なもてなし、感謝致します」
馬車を降りたハイドに挨拶をしたのは何人もの兵や侍女を従えた大砂海帝国の王太子アリージャだった。
肩下まで伸びた艶やかな黒髪、長身に見合う長い四肢、惜しげもなく晒された厚い胸板。
掘りの深い精悍な顔立ちはハイドとはまた違った美しさだ。
「本来ならば私の父王が真っ先にご挨拶をするところでしたが、如何せん高齢なものでして本日は体調の方が優れぬのです。正妃の母もその付き添いに…大変な御無礼をお許しください」
「いいえ、構いません。私のような者の為に恐縮です」
ハイドは当たり障りのないことを言いつつ顔に柔らかい微笑を張り付けた。
正直誰が挨拶しようがいなかろうがどうだっていいのだ、そもそも乗り気ではないのだから。
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