第四章◆覚悟と誓い

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第四章◆覚悟と誓い

母親の顔なんて覚えていない。 知っているのは自分と同じ瞳の色をしていたこと。 そして自分を産んですぐに亡くなったというその事実だけ。 気が付いた時には既に一人だった。 「嫌だ、あの子またいるわ。怖い」 「仕方ないわ。神父様も孤児として受け入れた以上見捨てることは出来ないでしょ」 「でも、やっぱり…悪魔や化物みたいね。あの娘もきっとあれを生んだから死んだんじゃ…」 その言葉が聞こえた途端、教会から逃げ出した。 化物と呼ばれた子供は自分に向けられる嫌悪感を素早く感じ取り人気のない場所へ走る。 「…」 誰も人のいない古井戸。 冷たい石にもたれ掛かって、子供はぼろきれの布の下からパンを取り出し齧った。 教会で出される命を繋ぐ程度の味気ない食事だ。 パンをちぎる自分の指を見つめる。 骨の上に辛うじて程度の肉と皮がついた指は浅黒い。 周りの人間とは違う色の肌、黒い髪の毛。これが化物だと敬遠される所以だ。 周りと容姿が少し違う――たったそれだけの事。 それだけで異形扱いをされる子供は哀れにも自分が何故厭われるのかすらもわかっていなかった。 子供が理解しているのは生まれた時から自分が恐れられて嫌われていることだけ。     
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