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第二章◆後宮の毒牙
王都から少し離れた町、ジュラム。
ジュラムの町外れは砂漠に面している。
中心部から端へ行けば行くほど人影や民家などは減り、風化した廃屋があるばかり。
そんな町外れ、誰もいない砂漠の面前で黒い大外套で顔までを覆い隠した男と質素な身なりをした壮年の男が立っていた。
「なに、奴隷商人共が捕まっただと!?」
壮年の男が怒声を張り上げながらもう片方の男に詰め寄る。
大外套の男は怯むことなく壮年の男を見下ろした。
「治安部隊が動いた、仕方なかろう」
「ええいあの小僧めが!忌々しい!!あいつが治安部隊に来なければわしは領主のままでこんな生活を強いられることも無かったというに!」
怒り荒れる男の名はマフディーといった。
数年前までこのジュラムの領主を務めていた男だった。
異常な税の取り立て、民に対する横暴な態度、犯罪の黙認など様々な問題をムスタファ率いる治安部隊に公にされ領主の位を剥奪された過去を持つ。
ムスタファの恩情により処罰は蟄居。投獄こそされなかったもののそれからマフディーはジュラムの町外れで侘しい生活を強いられた。
いつか目に物を、と憎悪を溜め込みながら。
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