初雪の日に

3/3
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「魁くん、模試で忙しそうだったし。なんかプレゼント催促するみたいで嫌だったから黙ってたの」 ごめんねと微笑んだだけで君はまたファインダーを覗こうとするから、僕は思わず君の腕を掴んだ。 「ふーちゃんの誕生日なら、一緒に祝いたかった! プレゼント、何がいいかなって考えて、喜んでもらえるかなってワクワクして。17年前の今日、生まれて来てくれてありがとうって言いたかったよ」 僕がいつになく強い調子で詰め寄ったせいか、君はキョトンとした顔で僕を見つめていた。 「魁くん?」 「もしもふーちゃんが会いたいと言ってくれるなら、僕は何を置いても会いに行く。それでなくても毎日会いたいんだから」 一気に捲し立ててから、ブワッと全身が熱くなった。 きっと僕が発する熱で、僕の周りの雪は空中で蒸発するに違いない。 少しずり下がった君のメガネも、心なしか白く曇っているような気がする。 そう思ったら、見る見るうちに君の顔も真っ赤になった。 何か言ってほしいのに、何を言われるか怖くて。もう今のは全部忘れてくれと叫びたくなる。 「私も」 君の口から漏れた声は、小さすぎて聞き取れなかった。 「え?」 「……私もいつも会いたいよ。だから、雨でも雪でもいいの。魁くんに会えるなら」 そんな可愛いことを言われたら、抱きしめたくなる。 ギュッと。ギュギュッと。 でも、笠井公園の梅林は人が多すぎて、そんなことは出来ない。 「ふーちゃん、ケーキ食べに行こうか。ちょっと遅くなったけど誕生日のお祝いに」 恐る恐る差し伸べた手に、冷たい手が重なった。 きっと僕の熱で、君の手はすぐに温かくなるだろう。 「魁くんは手も心もあったかいね」 君がフフッと笑って、また僕の周りの雪は解けていった。 END
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!