1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
降り始めた小雪。
視界が白の世界に濡れていく。
首から提げたカメラを構え、かじかむ指をそっとシャッターに添える。
「どうして、そこにいるの」
カメラのズームで捉えられず、眼鏡のフレームからも外れた視界の端の端に、存在を確認した。
うっすら色付く蕾を摘まんでいた指が、そっと私へ向けられる。
「キミに、とらわれそうだから」
春を待つ妖精は、陽だまりのような温もりを滲ませ微笑む。
優しい指先が私の髪を撫でると、乗ったばかりの白銀の結晶を溶かし、しっとりと濡らした。
構えたままのカメラを向ける事が出来なくて、眼鏡のレンズがうっすら曇る。
「とらえに来たのよ、アナタを」
寒いのも冷たいのも、キライ。
暖かな春がこの手に欲しくて。
鮮やかな彩りをフレームに切り取りたくて。
アナタは、四角い枠にはまってくれないのね。
眼鏡のレンズにも収まらない。
待ち遠しい、存在。
*end*
最初のコメントを投稿しよう!