用意周到な彼女

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用意周到な彼女

A「田中君、ちょっとそこに立ってくれない? 写真撮るから」 B「写真なんか撮ってる場合じゃねーだろ」 A「そんな場合なのよ。むしろこの写真、後で使えるかもしれないからね」 B「何に使うんだよ! 俺ら雪山で遭難っていう洒落にならない状態なんだぞ?!」 A「洒落にならないから今のうちに遺影を撮っておこうと……」 B「やめて! そんな用意周到な遭難者ってなんか嫌だ!」  俺は佐々木と、そんな言い合いをしつつも、心の中はこの吹雪のようにざわついている。  高校の修学旅行で遭難だなんて冗談じゃない。  一緒に遭難をした相手が一年生の頃から片思いしていた佐々木だとしてもだ。  好きな子といられるのと、命の危険は別。 A「こういう時は慌てると良くないのよ」 B「慌てるよ! そもそも佐々木はなんで俺を呼び出したんだよ! しかも外に!」 A「それは……」 B「話があるならロビーで」  その時、担任の教師の声が聞こえた。  助かったと思ってよくよく辺りを見てみると、山小屋はすぐそばにあったのだ。  どうやら、吹雪のせいで方向感覚がなくなっていたらしい。  俺を外に呼び出したかと思えば、散歩しようだなんて、佐々木も変な奴だな。  そのせいで遭難しかけたけど、かわいいから許す!  そんなことを考えつつ、山小屋へと戻る。   すると山小屋に着く直前、佐々木がこちらを振り返って言った。    A「田中君、やっぱ写真撮らせて」 B「もう遺影はいらんだろ」 A「私の部屋に飾るための写真がほしいの」  そう言った佐々木の真っ白な頬が、みるみるうちに赤くなっていった。
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