0人が本棚に入れています
本棚に追加
「雪景色っていいわよね」
私が言うと、ジェームスは冷徹に言い放つ。
「雪景色なんか真っ白に所どころ影があるだけじゃねぇか。何がいいんだよ」
「その影がいいんじゃない? 雪って汚いものも綺麗なものもふわっふわの綿みたいに覆い隠してくれるのよ」
「アホかお前は。雨が凍った状態で落っこってくる物体の何が綿だよ。中途半端に溶けた雪が屋根から落ちてきて、何人の年寄りが死んだと思ってるんだ!」
ジェームスは何を興奮してるんだろ。
遠くで雪が静かに落ちて、大木の枝が雄々しくそそり立つ。
「ジェームス、あそこ!」
パシャ!
「あ、ピント外した」
「ポンコツ!」
「口が悪いなお前……」
ジェームスは拗ねた。
「もう帰ろうぜアリサ!」
「いつになったら覚えるの! 私はカオルコ!」
「覚えにくいんだよ」
むぅ~~~~!
写真は嘘をつかない。
いいものはいい。美しいものは美しい。
雄大な世界の、他に存在のない光景。光と影。寒さと暖かさ。
暖かさの中の冷たさ。醜さの中の美しさ。
矛盾した言葉を凌駕する写真の中の圧倒的な光景の真実。
私はそれを、もっと魅惑的に捉えて、見せつけられる人になりたい。
「ジェームスはどんな景色が好きなの?」
「お前が好きな景色を、俺も好きだよ、ジェニファー」
「カオルコだよ! カメラに口説かれても嬉しくないわ!」
(おわり)
最初のコメントを投稿しよう!