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 曽根との別れは突然にやってきた。曽根の彼女だと名乗る女から不快なメッセージが届き始めたのだ。初めは無視していたが、昼夜問わず鳴り続ける着信音に嫌気がさして曽根を問い詰めると、曽根はあからさまに狼狽え、三ヶ月前に合コンで知り合って以来関係を続けている女のことを白状した。  曽根には何度も謝られて別れたくないと懇願されたが、整は応じなかった。城野とのあの出来事さえなければ、とうに別れていた関係だ。曽根の不貞を責められる立場でもない。せめて友達でいてほしいと項垂れる曽根に、整はしぶしぶ頷いた。  意外なことに、曽根との友人関係はその後も続いた。会う度に恋愛話をされるのはかなり鬱陶しかったが、恋人から友人へ関係が変化したことで、ようやく整は曽根という人間と正面から向き合うことができたと思う。馬鹿で幼稚で単純だと蔑んでいた男は、実はスーパーポジティブでどんなことにもへこたれないというすばらしい長所の持ち主で、そういう彼の特性は専門分野の研究や就職活動で大いに発揮された。人見知りで内向的な整は就職活動で苦戦して、不本意にもこの友人に幾度となく励まされることとなった。  朝一番の新幹線に乗り込んで、K市へと向かった。整がこの街を訪れるのは、大学の卒業式以来だ。目に映る景色が眠っていた記憶を呼び覚まし、懐かしさで身体中の細胞がざわめき始める。  駅前のロータリーで式場への送迎バスに乗り込む。車内は奥の方から八割方席が埋まっていて、整は一番手前の席に腰掛けた。荷物を棚に上げながらさりげなく車内を見回すが、目的の人物は見当たらなかった。
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