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「……本当に馬鹿な子だね。 わかったわ。 それじゃぁ、お望み通り、殺してあげるわよ」
唯一愛した者の命を奪う恐怖にーー声が、手が、魂が……私の全てが震え、悲鳴を上げる。
--嗚呼、あの時二人が出逢わなければ。彼女が私の正体を見ていなければ。そして、彼女が私を愛し、探したりしなければ……こんな事にはならなかったのに……。
一体、何を何処で間違えてしまったのだろう。
私は終わりの見えない自問自答を繰り返しながら、そっと優しく彼女に息を吹きかけた。全てを凍り付かせる氷の吐息を。細い脚から徐々に、美しい氷の像へと姿を変えていく彼女。きっと、今の彼女の胸では、直ぐ目の前まで押し寄せている死への恐怖が渦巻いていることだろう。しかし、彼女は、穏やかな瞳で真っ直ぐに私を見つめると、柔らかく微笑んだ。
「私を終わらせてくれるのが貴女で良かったわ。 大好きよ、私の雪女さん」
そう告げた直後、直ぐに凍てつき色を喪う彼女の唇。でも、私は忘れない。決して忘れたりしない。こんな私をーー化け物を、愛してくれた彼女がいたということを。私は絶対に忘れない。私は、酷く冷たくなった彼女の亡骸を抱きしめると、その唇にそっと己の唇を押し当てた。
「私も大好きよ。 可愛い、小さな人間の女の子」
そうして、私は彼女を抱き締めたまま、哭いた。世界を、自分を、この世の全てを呪いながら。
--彼女と逢わせてくれた世界は美しい。でも、その世界が彼女と私を引き裂いた。
嗚呼、なんて此の世は儚く残酷なのだろうーー。
また、私は独り法師。
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