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当初、これほどの方々が集まったのなら今さら生きてました、などと言えないと思っていましたが、死にたくないのは事実。恥を承知で棺桶の蓋を押し上げました。
押し上げられませんでした。
悲しきかな、しっかり釘で固定されておりました。
ならばこの棺の底を蹴り割ってくれる、と思い渾身の踵落としを致しました。
踵が痛うございました。
悲しきかな、蝶よ花よと甘やかされた私の足は華奢な子鹿のような足なのでございます。
棺桶の中で悲しみと絶望と激痛に暮れておりますと、少しずつ辺りの音が小さくなってまいりました。どうやら墓地の近くのようです。
これならば私の声も届くはず!そう声をあげようとしたとき、棺を運んでいる人たちが話し出しました。
「にしても、シルトクレーテ家のご令嬢がこんなに若くして亡くなるとはな……、」
「ああ、一体何故家の中で突然死んだんだろうか。」
リンゴを喉につまらせて娘が死んだ、というのは流石に伏せているようでした。不甲斐ない死に方をしかけて申し訳ございません。
「でもこのタイミングでよかったよな。これで関係ない村娘が死なずにすむ。」
「全くだ!俺にも娘がいるから白羽の矢が立たないか気が気じゃなかった!」
「本当にこの令嬢には感謝しかねえ。生け贄にはぴったりだ。」
思わず、開けかけた口を閉じました。
息を潜めながら彼らの話を聞いておりますと、どうやら近々海に住む神に生け贄を捧げる儀式があるようでございました。生け贄は若い娘で、ランダムに選ばれるはずでございました。しかし幸か不幸か、丁度いいタイミングで生け贄の資格のある私が死んだのです。これ幸いと私を生け贄にあてがったようなのでございます。
お粗末な頭を高速回転致します。
私に与えられた選択肢はデッド・オア・デッド。
このまま死んだと勘違いされたまま生け贄として海に置いていかれるか、ここで生きていることを主張し、海に置いていかれるか、でございます。
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