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柔らかな雪が音もなく降ってきた。
まだ葉もつけない木々は、寒々しく。
けれど枝先に膨らむ蕾は、春になるのを待っていた。
そんな矢先である。
カシャリと、聞き慣れた音が聞こえた。
反射的に振り返る。
そこに、彼女はいた。
カメラを構え、レンズをのぞく。
その横顔は真剣で、思わず息を止めた。
ここからでもわかる、赤々とした鼻や指先。
時折、白い吐息が大気に溶けていくのを見ていた。
B:「…寒く、ないの?」
A:「…」
考えるより先に、声が出た。
けれど彼女は、何も応えない。
B「何か撮れる?」
ようやく顔をあげこちらを見る。
艶やかな唇から、白く生暖かい息がもれた。
A:「春の訪れ」
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