吐息

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
柔らかな雪が音もなく降ってきた。 まだ葉もつけない木々は、寒々しく。 けれど枝先に膨らむ蕾は、春になるのを待っていた。 そんな矢先である。 カシャリと、聞き慣れた音が聞こえた。 反射的に振り返る。 そこに、彼女はいた。 カメラを構え、レンズをのぞく。 その横顔は真剣で、思わず息を止めた。 ここからでもわかる、赤々とした鼻や指先。 時折、白い吐息が大気に溶けていくのを見ていた。 B:「…寒く、ないの?」 A:「…」 考えるより先に、声が出た。 けれど彼女は、何も応えない。 B「何か撮れる?」 ようやく顔をあげこちらを見る。 艶やかな唇から、白く生暖かい息がもれた。 A:「春の訪れ」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!