いつか、あの星のように

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12月の夜の冷えた空気が身体からいとも簡単に温もりを奪って行く。 幾ら周囲をしっかりと囲んだガーデンルームだと言っても、室内とはかなりの温度差があって、呼吸をするたびその冷たい空気は身体の中に染み込んで行くようで、夜の暗さと相まって何となく物寂しい気分になる。 「見れなくても別にいいよ。彗星なんて興味ないし。  それにまたいつか新しい星がやってくるって言ってたぞ?  もういいだろ、寒すぎる。ホントに風邪引くぞ」 部屋の中に入ろう。 そう言いながら掴んだ腕は、膨れたダウンジャケットの上からでも わかるくらい細くて、強引に引っ張ったら折れてしまうんじゃないかと冗談じゃなく思えて、俺は立ち上がったものの掴んだその腕を引いて智哉をベンチから立たせることができずにいた。 そんな俺の手に、智哉の冷たい手がそっと触れる。 その異様な冷たさに思わずはっと視線を向けると 「最後にね、周ちゃんと俺の特別な思い出があったらいいなって思ってたんだ」 子供の頃と変わらない 無邪気な目が、隣に立つ俺の目を見上げていた。 その言葉と穏やかな微笑みに俺は動けなくなって、 乾いた唇からは何の言葉も出なくなる。 最後にね。 幼馴染がどんな意味を込めてその言葉を使ったのか 生まれた時からの付き合いの俺にはわかるから。
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