いつか、あの星のように

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はあ。 俺が何も言えないでいると、智哉は一つ大きく白い息を吐いて 「部屋に戻ろうか」 そう言って、立ち竦んでいる俺の隣に並んで立った。 「ごめんね、こんな寒いのに付き合わせて。でも、行かないとか  ダメだとか言わなくてくれて嬉しかった」 微笑む智哉の笑顔が儚く見えて、捕まえていないと消えてしまいそうで 細い手首をもう一度掴み、引き寄せて抱きしめた。 ぎゅっと抱きしめた身体は、とても細くて小さくて 力を込めたら折れてしまいそうで だけど、温かくて。 離したくなくって 離れたくなくって でもどうしたらいいのかわからなくて。 どうすれば大切な幼馴染の寂しさを、悲しさと、苦しさを掬い取ってやれるのかわからなくて遠い夜空を見上げて考える。 そこに見えたのは、ひと際光る赤色の星。 広く暗い夜空の中他の星に紛れながらも、じんわりとその激しい赤を主張する小さな光。 それは俺の中にずっと前から燻る、智哉への形容しがたい邪な気持ちに似ていた。
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