プロローグ

2/3
前へ
/49ページ
次へ
 すれ違う人々の群れを掻き分けながら、足速に歩いていた少年。何かを見つけたのか、突然振り返って歩みを止め、ジッと見つめてきた。  その瞳の優しさにはとても安心感があり、ただ言葉なく見つめ返す。  《どこかで見たことがあるような…。ああ、そうか。この子は…》  最後まで考える暇も与えず、少年は言う。 『あ!あったよ!』  そう言うと、今までしっかりと握っていた手を離し、時折建物の間から見えていた大きな山の裾野を指さして、嬉々とした笑顔で山を眺める。その山を望むかのようにそびえ立つ、とても立派な赤い鳥居は、人々を山頂へと誘う登山道の入り口に建っていた。  少年はその鳥居を探していた。  少年の心は、すでに山に向いている。  それが得体の知れない不安感だと、直ぐに悟った。続けて少年は言う。 『ちょっと行ってくる!』 とても嬉しそうに山の頂を指さしている少年の足は、自分とは別の方向を向き、そして足早に赤い鳥居の方へ掛けだしていた。 『ちょ…まって!』  自分の声が少年に届いているのか否かは定かではないが、自分は必死に少年を呼び戻そうとする。 《行ってはダメ!…お願い!行かないで!!》  心が張り裂けそうな思 いがした。  止めなければ!何と してでも…。 『まって!!行かないで!』  必死に叫ぶ自分の声は、周りの人々の会話に完全に掻き消されている。       
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加