0人が本棚に入れています
本棚に追加
すれ違う人々の群れを掻き分けながら、足速に歩いていた少年。何かを見つけたのか、突然振り返って歩みを止め、ジッと見つめてきた。
その瞳の優しさにはとても安心感があり、ただ言葉なく見つめ返す。
《どこかで見たことがあるような…。ああ、そうか。この子は…》
最後まで考える暇も与えず、少年は言う。
『あ!あったよ!』
そう言うと、今までしっかりと握っていた手を離し、時折建物の間から見えていた大きな山の裾野を指さして、嬉々とした笑顔で山を眺める。その山を望むかのようにそびえ立つ、とても立派な赤い鳥居は、人々を山頂へと誘う登山道の入り口に建っていた。
少年はその鳥居を探していた。
少年の心は、すでに山に向いている。
それが得体の知れない不安感だと、直ぐに悟った。続けて少年は言う。
『ちょっと行ってくる!』
とても嬉しそうに山の頂を指さしている少年の足は、自分とは別の方向を向き、そして足早に赤い鳥居の方へ掛けだしていた。
『ちょ…まって!』
自分の声が少年に届いているのか否かは定かではないが、自分は必死に少年を呼び戻そうとする。
《行ってはダメ!…お願い!行かないで!!》
心が張り裂けそうな思 いがした。
止めなければ!何と してでも…。
『まって!!行かないで!』
必死に叫ぶ自分の声は、周りの人々の会話に完全に掻き消されている。
最初のコメントを投稿しよう!