第1話「くーねるはハリネズミ」

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第1話「くーねるはハリネズミ」

ハリネズミになってから、2週間が経った。 近所の子どもたちからは、 「くーねる」と呼ばれている。 職もなく食って寝るだけ。 だからくーねる。 以前は夏目正太郎という 生物科学の博士として 世界を股にかけていたが、 ある日とある実験が失敗したせいで このような姿になってしまった。 身長は以前の私とほぼ同じ 一六五センチで体重は六二キロ。 我ながら世にも奇妙な 巨大なハリネズミである。 こうしてハリネズミになった私は、 所属していた生物科学研究所からも追放され 今や一人暮らしの身である。 このまま貯蓄を削り生活を続ける わけにもいかないので、 今後の動向を探っている最中である。 というのも、なにせハリネズミになったのも 生まれてこのかた初めてなもので、 普通に生活しようにもなかなか 円滑に物事が進まないことも多々ある。 例えばトイレで用を足す時。 私の体は基本的に人間でいうところの猫背、 むしろそれよりも まるっとした体型なもので、 以前のように腰をかけてさぁ出すぞ、 と秘部に力を込めると、 その線は美しい四十五度の 放物線を描きながら 厠の床にありったけのにょ……を、 これでもかといわんばかりに 打ち付けてしまうのだ。 なのでもともと自宅に設備されていた 洋式のトイレは和式に リフォームさせてもらった。 むしろ和式便所でなければ排泄できない。 全く不便なものである。
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