ふたりなら怖くない

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 溢すなと注意しても無駄と知っているクロノスは自らもスコーンをひとつ手に取ると、易々と二つに割って紅茶の湯気に当てる。その間、口を動かしている剛志の様子を伺っている。 「ん、美味い」 「そう。よかったわ」 「しかしよく割ったな、それ。お前、もしかして実は怪力?」 「硬いかと思ってナイフで切り込みを入れたの。ほら、剛志さんの分も切り込み入ってるじゃない。ちょうど切り込み入ってないところを噛み千切ったみたいだけれど」 「ああ、用意いいな──って、やっぱり硬いとは思ってたのかよ」  硬いスコーンに苦戦しながらも平らげた二人が同時に紅茶を飲んだ。  そのときだった。雪の中の門が開いたのは。  大地を大きく揺らすそれに、剛志が紅茶に口をつけたまま眉を潜めた。家の屋根からどさりと雪の塊が落ちて崩れる。 「お仕事みたいね」 「ああ、やだねぇ。面倒事はごめんだ」 「ここに来る人なんて面倒事を抱えてる人ばかりでしょう?」 「ああ、違いねぇな」  そして剛志は紅茶を勢いよく飲み干した。 「クロノス、茶ぁ頼む。おじさんはちっと客人を迎えに行ってくっから」 「早く行ってらっしゃい」  雪景色に剛志が入っていく。ポットを片手にクロノスはそれを見ていた。  そして不意に頬を膨らませる。 「ただのお茶じゃなくて特製の紅茶なのだけれど」  台所に入っていったクロノスに野太いくしゃみが届くことはなかった。
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