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ふたりなら怖くない
あの日。
世界が繰り返されるようになった日。
雪がいつまでも残る世界になった日。
クロノスが剛志のもとに残ることを決めた日。
その日からずっと剛志は雪ばかり見ているというのに、そのことについて文句を言ったことはなかった。スプリングの軋む音がするソファに、まるでとろけるチーズのように座っている。
そんな彼は険しい顔をして口からバターの香るそれを取り出した。
「おおい、クロノス。このスコーン硬すぎだ。おじさん、歯ぁ立たなすぎて笑けてきた」
「あら、おじさんったら。足腰以外に歯まで弱ってきてしまったのね」
答えたのはゴシック調のドレスに身を包んだ少女だった。黒い布から伸びる手足は雪のように白い。クロノスはドレス姿に相応しい柔和な笑みを浮かべて、まるで少女らしくない毒を吐き出す。
「失敬な。おじさんは健康体そのものだってえの!」
「紅茶と一緒に食べたらちょうどいいくらいに焼いてあるのよ。はい、召し上がれ」
淹れたての香り広がる紅茶を手渡すと、剛志は眉を寄せながらスコーンをそれに突っ込んだ。波打った水面が外の世界に飛び、ニスの利いた木目に散る。
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