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彼女は毎日僕に話しかけてきた。
「今日は従妹のマリーが来たのよ」
「アンナのつくるクッキーは国宝級なのよ」
「お父様が明日、ロンドンから帰ってくるの」
-どうでもいい。うるさい。
僕は相変わらず彼女の話に一切興味がなく、常に無視をし続けた。
そんな日々を繰り返す中、彼女はある日突然言った。
「ねえ、ルー。私、結婚するわ」
そう言って彼女は嬉しそうに左手の薬指を僕に見せた。そこには美しい大きな石が輝いていた。
さすがの僕も、あまりに突然のことに驚き、彼女を見つめた。
そんな僕の気持ちを知ってか、それとも知らぬでか彼女は続けた。
「お相手はね、セオ=オルコットっていってね、私の3つ上。ナトッシュ伯爵家の次男で優しくて文武共に優れたお方なの」
そして彼女は照れたように笑った。
「こんなに素敵な縁談に恵まれるなんて、私、幸せ者ね」
最近は日が沈むのがめっぽう早くなった。彼女の香色の髪や白い肌を夕陽が朱に染め上げていった。
一方僕は結婚が決まって幸せそうな彼女の顔を見て、何だか苛立っていた。
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