木漏れ日のもと、君を想う

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-今は彼女の顔を見たくもない。 僕はまた黙って立ち上がった。そして木から飛び降りた。 「あ、待って!」 彼女も慌てて木を降りて僕を追ってきた。 -ついてくるな。 「ねえ、ルー、怒っているの?」 -知らん。 「あ!ルー!」 突如彼女の声は大きく、高くなった。 -うるさい! 僕は怒りに任せて振り返ると同時に、僕が世界で1番嫌いな音が鳴り響いた。 パンッ。 乾いた短い音と共に、すぐ真後ろにいた彼女がゆっくりとたおれた。 それと同時に僕に何やら温かいものがかかった。 -えっ…? 僕は目の前の光景に酷く戸惑った。 さっきまでうるさかった彼女は目を見開いたまま、嘘のように何も言わなかった。そして彼女の胸から広がる赤い大輪が真っ白な雪の上で咲いていた。 「うわあああ」 腰を抜かしたような叫び声が聞こえた。そちらの方向を見ると、貴族らしき男が抱えている銃の先から仄かに煙が上がっているのを確認できた。そしてそ彼の左頬には傷があった。そう、ルーカス=ギィディングスだ。彼は青い顔をして震えていた。 そのとき僕は全てを悟った。 彼は結婚すれば爵位が継げる彼女との結婚を僕に邪魔された腹いせに、僕を殺そうとしたのだ。 そして彼女は、僕を庇って死んだ。
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