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「ルーってね、loupって書くのよ」
彼女はそんな僕の無言の不服申し立てを無視して、空に向かって白く細い指でアルファベットを書き並べた。
「フランス語で狼って意味よ。お母さまの国の言葉なの。うん、やっぱりあなたにお似合いよ!」
彼女は満足そうに頷いた。彼女の榛色をした眼は三日月の形になった。
「ねえ、ルー。いい名前でしょう?」
―どうせ僕の気持ちや意見なんて聞く気がないだろうに。
僕はどことなく誇らしげな顔をした彼女を、胡散臭そうに見つめた。
「ねえ、ルー」
彼女は懲りもせず、また僕に話しかけてきた。
ブチッ。
そして僕の堪忍袋の緒が切れた。
ずっと寝そべっていた僕は跳ね起き、怒りとその反動でそのまま隣にいた彼女に襲いかかった。彼女はあっけなく倒れて仰向けになった。そして僕は彼女を羽交い絞めにして至近距離からじっと睨みつけた。
彼女はさっきまであんなにうるさかったのに、押し黙り静かになった。必死に恐怖を隠そうとはしているが、歯はガタガタと鳴り、顔色も悪かった。
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