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彼女が身につけている服は上質なシルク地から出来ていた。そして襟や裾、袖には繊細なレースが施されていた。恐らく彼女は、貴族は貴族でも格の高い名家の出身で、こんな状況に遭遇したことは無いのであろう。
あまりに無様に震える彼女が気の毒になり、僕は彼女を放した。
それから彼女は執拗に僕に話しかけることもなく、大人しく黙って座っていたが、その場を立ち去ることもしなかった。
それからどのくらいのときが経っただろうか。
僕はしばらく惰眠を貪っていたのだが、何かが動く気配にはっとして目を覚ました。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
すまなそうな顔の彼女とゆっくりと起き上がった僕の顔を、橙色の日差しが葉の間を縫って照らした。
僕は彼女には答えず、黙って西の空を見上げた。
空はとても美しかった。鴇色と茜色が淡く入り交じり、黄金の陽はもうすぐ地に沈もうとしていた。
-ああ、もうこんな時間か。
知らぬ間にもう夕刻を迎えていたらしい。きっと彼女は暗くなる前に、家へ戻ろうとして立ったのだろう。
僕が空を見上げるのにつられ、同じく空を見上げていた彼女はポツリと言った。
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