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恋人の死骸と共に一礼、というのは我ながら渾身の演出で、なかなかR指定がかった振る舞いだとおもったのだが、少年の反応は思いの外鈍かった。
私はそれを最初、少年がパニックを起こして、身動きどころか反応さえできなくなってしまったのだろう、と解釈した。けれど少年は言葉を失うどころか、私に、こう問うてきたのだった。
「そんなの美味しいの?」
予想外の問いかけ、というか問いかけがあること自体が想定外だったので、私の方がたじろいでしまった。けれど、せっかく命をいただいておいて、感想を口にしない、というのは死んだ彼女に失礼だろう。
「とても美味しかったよ」
美味しくない訳がなかった。硬い筋も、生臭い腸も、腐った排泄物すら、すべてに感謝しながら貪った。不味い部位など一つたりともあってはならなかった。鬼畜なりの矜持がそうさせた。
しかし私としては、井戸の底にいるとはいえ、それなりに近寄ってはいけない雰囲気をだし続けているつもりだったのだが、少年は一向に大人を呼びに行く素振りを見せず、どころか逃げ出そうとさえしない。
そのせいで私さえも、この異様な状況に慣れを覚え始めてしまった。
「君はなぜここに気がついたんだい?」
なんというか、当たり前の質問をしていた。
「この穴の周りにゴミ袋がいっぱいあったから」
その少年の解答で、ようやく私は自らのしでかしたミスに気づく。
私は枯れ井戸の底が汚れるのを嫌って、持ち込んだビニール袋に土と一緒に排泄物を混ぜて、井戸の外へと投げ捨てていたのだった。
そうやって放射状に散らばっているであろうゴミの中心に、私のいる井戸があり、それで興味を持って覗き込んでしまった、ということらしい。
「それで、おじさんはなんでこんな穴の中にいるの?」
今度は少年からの質問。
「悪いことをした罰だよ」
「誰かに怒られてるの? なにしたの?」
「食人は人の禁忌、あぁ、この言葉は君にはわかりにくいな……とにかく、絶対にしてはいけないことをした自分を、おじさんがゆるせなくて、自分自身に罰を下したんだよ」
子供に慣れていない私の言葉は、少年に上手く伝わっていないようだった。
「誰か呼んでこようか?」
「君が呼びたいのならば呼べばいい」
「なにかしてほしいことない?」
私は首を横に振った。
すると少年は少し黙り、考えて、改めてきく。
「お腹すいてない?」
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