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私は空腹だと答えた。
私は自分が思うよりも意地汚く、生き汚かったらしい。
少年はそれから十分ほど、私の頭上から姿を消した。けれどその後しっかりと戻ってきた。そして、私の元へビニール袋を投げてよこした。
一目でその袋の出どころがわかった。地上に転がっていた私の排泄物が入っていた袋だ。
私は一旦考えて、それから少年を見上げた。そして微笑んでみせた。
これこそ私のような鬼畜には相応の扱いなのだろう。
私はビニール袋の口を解いて、中身を覗いた。
「……これはなんなのかな?」
その袋の中身が食料なのだとしても、私にはそれをどう理解すればいいのかわからずに、少年に尋ねてしまった。
「えぇっとね、虫の死骸と犬の糞のぐっちゃぐっちゃ和え」
少年は満面の笑みで答えた。まだ理解できなかった。からかわれている、というのが一番納得できる解釈なのだが、しかしその少年の笑顔は、私をあざけっているようには見えなかったのだ。
「……君は、これを食べるのかい?」
一応きいてみた。
「食べないよ」
当然の解答。それを聞いて少し安心した。
「でも、おじさんは人を食べる変な人でしょ? 変なものの方が嬉しいのかな、と思ったんだ。僕、虫嫌いだけど、頑張って拾ってきたんだよ」
驚いたことに、そのビニールには少年の善意が詰まっていたらしかった。
私のような鬼畜に、あの少年は善意を与えてくれたのだ、ここは食べない訳にはいかないだろう!
と一瞬袋の中に手を伸ばしてみたが、やはり無理だった。無理なものは無理だった。食人鬼でも無理だった。
「ごめん。これは私に食べられそうにはないよ」
そういって私が謝罪すると、少年は申し訳なさそうに「そっか」とつぶやき、ゴミになるだろうから、といって袋を投げて返すようにいってくれた。
少年の人間離れした善意に胸が痛んだ。けれど駄目なものは駄目だった。自分の食の好みが常人のそれでないことを恨めしく思い続けてきた私だったが、この時ばかりは自分の嗜好が常識を外れ切っていないことを後悔した。
……いや、流石に犬の糞はないか。
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