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それから、少年は二日に一度くらいの間隔で、私の元を訪れるようになった。
その際はいつも差し入れが一緒だった。
パスタに見えなくもないミミズ、発酵食品になり損ねたカナブン。生ムカデ。
自分が限界寸前に至っても虫を食べられない、というのは発見だった。知らなくてもよかったが、それは伝えず、謝罪とお礼を一緒に伝えた。
少年の差し入れはその後も続いた。
チャバネのワモン添え、の段階に至った辺りで、流石に殺意が湧いた。
こんなもん喰う奴がいるか!
怒鳴りそうになるのを、必死で飲み込んだ。
きっと食べたいものをはっきりと言わない私にも非がある。
けれど今更私が生姜焼きを食べたい、などというわけにはいかなかった。なにせ、私は人を喰ってしまったのだ。
本音を伝えないまま、日々は過ぎていった。結果私は順調にやつれていった。想定外の出会いはあったものの、目指していた餓死は時間の問題のように思えた。
空腹の余り、幻覚も見るようになった。ほとんど同じ幻覚で、今やしゃぶりつくされて綺麗に頭蓋骨となった恋人が、生前の豊かな肉体を私に突き出し、好きなだけ食べていいのよ、と微笑んでくれる、というものだった。
「あの人が、人食いの人なの?」
私ははっとして頭上を確認した。
いつも通り見ていた幻覚が、子供の声で妨げられたせいで、私は不機嫌だった。
私の視線が鋭く、睨むようなものになっていたのだろう。井戸の上から子供の怯える声がした。
珍しいことだと思い、私は目を細めた。
そこに見えたのはいつもの少年ではなかった。
「誰だ?」
まだ機嫌が直っていなかったのと、空腹のピークで殺気だっていたのだろう。相手が子供であることを知りながらも、とげとげしい態度を取ってしまった。
その子は顔をひっこめた。
すると入れ替わりに、見慣れた少年が姿を現した。
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