食人鬼だからといってゲテモノ喰いなわけではない

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「おじさん。今日はね、友達を連れてきたんだよ」  少年は私が尋ねるより先に、先ほどの子を紹介した。 「僕がね、秘密の場所で人食い鬼と会ってる、って話したら、自分もどうしても見てみたい、っていうからさ。連れてきてやったんだ」  少年は得意気になっているようだった。その様子は友人に秘密基地における秘密を自慢する、いかにも子供じみた感じで、私は、この少年にもこのように普通な一面があるのだな、となにやら毒気を抜かれるような気分になった。  それから世話になっている少年の知人へ の紹介なのだから、私は自分にできる限り食人鬼らしく振る舞ってもてなそう、と考えた。  少年の隣から、恐る恐る友人が顔を覗かせた。そして私に尋ねる。 「人を食べた、って本当なんですか?」 「ああ。本当だよ。証拠は……そうだな、これでどうかな?」  私はそういって、彼女の頭蓋骨を掲げて見せた。するとその友人は、ひぃ、と悲鳴を漏らして、身を竦ませた。  なにやら、久しぶりの人間らしい反応に、感動さえ覚えた。気分がよくなった私は、取り外した彼女の下顎にかぶりつくパフォーマンスのサービスまでした。 「な、なんで人を食べるんですか?」  怖いもの見たさ、というやつだろうか。少年の友人は顔を青ざめさせながらも、井戸の縁から手を離すことなく、私への問いかけを続けた。私は少し考えて、それから答える。 「では逆にきくが、君はなぜ人間を食べないのかな?」  食べてはいけないから、人として正しい答えはそれだけでいい。私にだってわかる。だが、今の私は、いかにも食人鬼らしく答えようとしていた。上手く化け物らしく振る舞い、少年の顔を立てようとしていた。 「なぜ、って」  その友人は困惑していた。しっかりと私の芝居にだまされてくれているようだった。 「おじさん。こいつ気にいってくれた?」  少年の声だけがした。姿は見えなかった。 「ああ。気にいったよ。丸々と太って旨そうだ」  私がそういうと、友人はびくっと反応した。少し面白かった。  友人は目を逸らすと襲われる、とでも思っているのか、私にくぎ付けだった。  そんな友人の背後に少年の姿が見えた。少年は少年の頭ほどある岩を抱えていた。  友人は私に夢中だった。少年は岩を振りかぶった。そして友人の頭へと叩きつけた。 友人が地面に倒れる、どさ、という音が井戸の中にまで響いていた。
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