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一分が永遠のように感じた。
落ち着いていた心臓の動きがまた加速する。
しかしどんなに内心焦ったところで状況は変わらないのだ。
降りたい駅がもう目と鼻の先だと言うのになんの仕打ちだと言うのだろうか。
嫌な汗が噴き出てくるのを自分でも感じていた。
目の前にある固く閉ざされた扉が恨めしかった。
この扉さえ開いてくれれば。
そうすれば走って駅に向かえるのに。
俺は無言で車両の扉に手をかけた。
すると、頑丈に閉じられた印象の扉が驚く程あっけなく開いたのだ!
俺は歓喜し電車から飛び降りた。
これならギリギリ間に合う!
思いのほか地面まで高さがあり足をくじいてしまったが、興奮のせいか痛みも感じなかった。
数十メートル先の駅に向かって俺は走り出した。
ホームまであと数メートルの所まで近づいた時に背後から警笛の音が鳴り響いた。
俺は立ち止まり振り返ると、目の前にさっき乗っていた電車が差し迫っていたのだ。
電車が目前だと言うのに俺の脚は震えて身動きが取れなくなっていた。
しかも電車は止まるどころか加速し俺の元へと進んできたのだ。
俺は運転手に視線を向けた。
運転手の表情は分からなかった。
だけど薄っすらと見える口元が笑っているように見えたのだった。
その口元を見て俺は死を悟ったのだった。
そして世界が暗闇に変わった。
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