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「自分がスネ夫の息子だって気づくのは辛いね」と、いつものようにベランダに首だけ出してワナビが言った。
俺は段ボールの家から肩まで出て警戒している。弟は朝出かけて、まだ帰って来ない。辺りは暗い。ドアから光が三角に伸びている。
ワナビは続けた。「お前も浦瀬さんにもらってるのか? その段ボールの家、僕が作ったって分かってる? 浦瀬さんには触らせる?」
ワナビの顔が下がった。座ったのだ。
「お前、何歳? 俺、29。独身無職、彼女なし。ネット掲示板によれば最底辺の負け犬だ。その上、親がスネ夫。卑怯で小狡くて内弁慶で、弱い者に威張る。本人に自覚なし。お前のことクソミソに言ってるのを聞くとさ、子供の頃を思い出して辛いよ。タイムマシンでもどって、奴をぶん殴ってやりたい」
ワナビは俺の目をじっと見てくる。これでは警戒するしかない。こいつ、なにかする気か。
「命は大事にされた。けど魂を台無しにされた。甘えてるとか、親を悪くいうなとか、簡単にいうけど、幸せな奴らには分からない。俺はこれから人生を取りもどすんだ」
ワナビが目を反らした。いまだ、逃げるんだ。俺は前足を踏み出し――止まった。また、こっちを見やがった。
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