6 埠頭定食

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6 埠頭定食

「じゃあ貰ってくね」と言って、平屋から庭へ、ワナビが出てきた。段ボール箱を抱えている。中から野菜と果物の匂いがする。こいつも餌づけされているようだ。俺は、でかい植木鉢の陰でやり過ごした。  しかし空腹だった。一昨日と昨日はウラセサンが来なかったのだ。2、3日の絶食など何でもないが、ひもじいものはひもじい。  と、そのとき、背後で音がした。首をまわすと、キヨシサンが網戸越しにこちらを見ている。 「ニャーがなんだってんだ」  目を逸らさない。喧嘩か、どうしよう。と思ったら、引っ込んだ。すかさず壁に走ると、また音。  振りむくと、キヨシサンが踏み石の脇に皿を置いている。温かそうなご飯の上で鰹節が揺れる。キヨシサンは引っ込んだ。  しばらく待った。  もうひと呼吸待った。  次に風が吹くまでと決めた。  来ない。  いない。  近づいてみる。  においを嗅ぐ。  舐めてみる。  熱くない。  かぶりつく。  うまい――。  俺は夢中で食った。  翌昼もキヨシサンが食事をくれた。ありがたいことだ。良い生き物だと分かった。  夕方、ウラセサンの餌場にまた人間がたくさんいた。この辺りでは見ない連中だった。     
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