6 埠頭定食

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「インターネット掲示板のスラングでして、ガソリンの不凍液を振りかけた猫用の毒餌のことを言うんです。凍らずの不凍を港の埠頭に替えて、隠語のつもりなんでしょう」 「ほう」 「猫害に苦しむ人がたくさんいるんですね。ペットボトルだの棘シートだのからはじまって、不快音を出す機械や嫌いな臭いのスプレー、様々な対処法があるんですが」 「どれも駄目だな。保健所も捕まえちゃくれなかった」 「受け入れる保健所もあるとのことですが、ほとんどの場合はおっしゃる通りです。さすがですね」 「まあね、迷惑してるからね。でも、その不凍液の話は知らなかった」 「昔は、バーでワインに混ぜて事件になったことがあったそうです。そのくらい甘くて美味しいんです。で、これが猫に効く。具体的には猫の腎臓を冒します。摂取し始めて3日くらいで、急性腎不全で苦しんで死ぬそうです」 「犯罪じゃないのかい」 「私有地に毒餌を置いてる分には咎められません。殺鼠剤を勝手に猫が食べると言っては軒先に置く人もいるそうです。殺鼠剤でも猫は死にますから」 「うーん、責められないなあ。気持ちはわかる」 「では今回の大量死も?」 「それは分からないよ。でも誰かがやってるのだとしたら、感謝しますね」  それを最後にキヨシサンは去り、棒と黒い箱を持った人間たちも、しばらくしていなくなった。
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