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「深夜、降りて来たらどうだ」
タモの柄を捻って俺の捕獲を確実なものにしながら、キヨシサンが言った。
玄関からワナビが出て来た。
「この餌、深夜だよな」
「は? ちがうよ」と、ワナビが言った。
キヨシサンは、それを聞いて深く溜め息をついた。俺は凍りついた空気に当てられて、暴れるのを止めた。
「誤魔化すな。これ、埠頭定食だろう」
「なに言って――」
「気持ち悪いことをするなと言うんだ!」と、キヨシサンはワナビが話し終わる前に大声を出した。
俺は驚いて、体がびくりとした。
見ると、ワナビは肩を上げて、首を短くして固まっている。
ワナビは震え声で言った。
「ふざけんなよ。普段は笑顔で嫌味ばっか言って、いざとなると恫喝かよ。子供の頃から、そうやって俺を台無しにしたんだろうが。殺すぞ!」
「にゃー」と、俺は鳴いた。
「殺してみろ」と、キヨシサンが言った。
じり、とワナビが動いた。
俺にはワナビが本気だと分かった。俺たち野良には、そういうことが分かる。
「あたしだよ」
嗄れた声が割って入った。
俺は声のした方へ首を捻った。くそう、こりゃあ猫にもきつい体勢だぜ。
そこにはオカアサンが、緑の液体の入った容器を下げて立っていた。
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