3 ワナビとその家族

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 洗濯機の周囲には風よけと屋根があって、雨の日も暑い日も良い。前は人間も来ない1等地だったのに、ワナビがきて落ち着かなくなった。  奴は扉をあけて首だけを外に出していた。ベランダに出ると俺が逃げるからだ。  ワナビは警戒する俺の緊張に気づいているのかいないのか、茫洋と続けた。 「仕事辞めて越して来ました、よろしく。I wanna be a novelist. ワナビっていうの。胸が締めつけられる蔑称だろ。音だけで寒いよな」  ワナビとはまた気持ちの悪い響きだ。と、俺は思った。  ちなみに言っておくが、俺は人語を解さない。人間の鳴き声の意味なんて分からない。  ワナビは続けた。 「お前みたいな毎日か、小説家みたいな毎日か。どうなるか勝負だ」  どうも馬鹿にされた気がしたが、面倒になって、俺は洗濯機から降りて屋根に出た。振りむくと、ワナビがにやにやしていて不気味だった。  翌日、2階屋の玄関に大きなプランターがあった。中身は土ではなく、白と青の小さな粒だった。それが薄く敷き詰めてある。さらさらして堀り心地が良さそうだ。  まず弟が大便をして粒をかけた。 「次は俺の番だ」という意を込めて「にゃー」と鳴き、俺はプランターに飛び込んだ。  そのとき、「あ、またいたずらしてる。嫌になっちゃうよ」という声が聞こえた。     
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