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ワナビが言った。「ガソリンスタンドの向こうのセブンイレブンの前で黒猫が死んでた。お父さん、あっちから自転車で来てすれ違ったけど、見た?」
「見てないな、交通事故かな」と、キヨシサンが言った。
「うーん、歩道の真ん中に倒れてた。見たところ怪我してなかったけど、顔を見たら、鼻血がこう、たらたら出ててね。宅急便の人が気づいてたから、そのまま歩いちゃったけど、なにかして上げれば良かったと、あとから思うもんだね」
「保健所が片づけるだろ」
「黒猫って、うちの近くにいるのかね」と、オカアサンが言った。
「いや、ここから八百メートルくらいあるから、ちがうと思う。猫のなわばりは、そんなに広くないよ」
「浦瀬が餌やってるのよ」と、これはヨーコサンだ。どうやら家族が揃っているようだ。
俺は便意をもよおしてきて、木の多い白い家の庭に先日できた柔らかい花壇を思い出した。あそこを思い切り掘り返したら、どんなに気持ちがいいだろう。
ヨーコサンは怒ったように続けた。「前に猫の話になったら、『それはうちの外猫です』だって。失礼しちゃう」
「迷惑してるのにねえ、みんな」とオカアサン。
「みんなって誰? どのみんな?」と、キヨシサンが言って、空気が変になった。
オカアサンは悲しそうな顔をした。いや、実際に見えてはいないが、おそらくそうだ。猫にだってそのくらいは分かる。
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