4 餌やりウラセサン

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4 餌やりウラセサン

「あなた、いい加減にして下さいよ。まわりは迷惑してるんだ」  狭い路地に、キヨシサンの声が響く。  ここは夕方の餌場だ。3日振りにウラセサンが来てくれたのだが、そこにキヨシサンが現れた。 「可哀相にねえ、おおよしよし。3日も留守にしてご免ね」と言うと、ウラセサンはキヨシサンを無視して容器をコンクリートに置いた。魚のいい匂いがする。 「前に保健所の人に言われたじゃないですか。せめて去勢とか」と、近所でよく見かける別の雌が言った。  見ると、キヨシサンを入れて3人集まっている。  ウラセサンは地面を見たまま言った。  「去勢なんて、残酷なこと。可哀相でしょう」  キヨシサンが言った。 「可哀相、可哀相ってあなた、無責任に餌をやるあなたの方がよっぽど酷いですよ。餌をやれば子猫が生まれる。生まれた子猫のほとんどは死んでしまう。可哀相なことをしてるんですよ」 「猫なんて、飢えて死んでしまえって。ひどいねえ」  ウラセサンはキャットフードをむさぼる俺の頭を撫でた。  弟もご馳走になっている。隣近所の連中が集まって5匹。塀の上にさらに3匹。順番待ちだ。 「もうやるなって言ってるんだ!」と大声を出して、キヨシサンがキャットフードの容器を取り上げた。  俺たちはすぐに抗議の鳴き声を上げた。 「返せ、どろぼう! お役所に訴えるぞ!」と、ウラセサンが目の色を変えて言った。 「(とま)りさん、それはまずいよ。返して上げて」と、さっきの雌が言った。  それを受けて、キヨシサンは渋々、容器をウラセサンに渡した。  ウラセサンはすぐに容器を戻してくれた。猫たちが餌に群がる。 「とんでもない世の中だねえ。猫ちゃんに餌をやるだけで怒鳴られるんだからねえ。よしよし、美味しいかい」と、ウラセサンは、こんどは俺の背中を撫でながら言った。  キヨシサンたちはいなくなった。
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