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1 はじめに
私の名前は泊り深夜。デビュー間もない新人小説家である。二口女・両葉草ふうと同居をしており、ふうが引き寄せる妖しい出来事に多大な興味を持って自ら巻き込まれにいく、自分で言うのもなんだが、少しマゾヒスティックな性質を持った30代の独身男性だ。
これまで、人の世の片隅で生き延びてきた妖しく恐ろしいものどもと幾度も関わってきた。それを虚実織り交ぜて社会に発表して、糊口を凌いでいるわけである。
しかしながら本編は、私が両葉草ふうと出会う1年以上前の出来事であり、事件というよりは騒動、トラブルといったもので、ふうをはじめとした妖しのものは登場しない。
活字にしても平板過ぎると思っていたが、以前上梓した「リップレス×キャット」、いわゆる餌やりおばさん殺人事件の際に、猫害について私も経験があると書いたところ、読者諸氏より詳細を知りたいとのリクエストがあった。
そこで、私の敬愛する夏目漱石先生の代表作を真似てチャレンジしてみることにした。大文豪の傑作とは比ぶるべくもないが、すこしでもお楽しみ頂ければ幸いである。
舞台は東京都豊島区池袋にある私の実家。ある年の5月の初めに、私は会社を辞めて実家の敷地に建つ古い2階屋に越して来た。実家の周囲には2匹の黒猫の兄弟が暮らしていた。
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