そのシャッターを切る時

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 そして今にいたる。  写真を撮ろうとカメラを覗き込んでいる彼女を見て、俺はカメラを向けた。  それは無意識のことだった。  その時のAさんはいつもの控えめな様子とは違って、今この瞬間を捉えようとする少し荒々しい、彼女の本来の姿を目撃したように思えた。  あの時と同じだった。廊下で、彼女が撮った写真に目が留まった時と同じ。  ――この瞬間を何かに閉じ込めたいっていうのかな。  彼女の言葉が、今ならわかる気がした。  B「閉じ込めたいって言うか、独り占めしたい?」  A「ん? Bくん何か言った?」  B「いやっ、何も!」  俺は慌てて目の前にある、雪を被った桜の木にカメラを向けた。  何を言ってんだ、俺は。  その後、俺たちは写真を撮り続けた。
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