そのシャッターを切る時

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 結局俺は、4月の学内展示には空の写真を提出した。  それを見たAさんは、俺に良い写真を撮らせられなかったと肩を落としていた。  桜と雪の写真も悪くはなかったが、Aさんの写真もそれだったから、比べられたら恥ずかしいと思った。  俺はこうして写真部を引退した。これからは受験勉強が始まる。そしたらますます写真を撮らなくなるだろう。  でも、写真を撮る面白さは少しわかったかもしれない。  学年が上がってからはAさんとクラスが離れてしまい、話すことは前以上になくなった。廊下ですれ違っても、軽く会釈をする程度だ。  別に今は、それがどうってことはない。  Aさんには良い写真が撮れなかったと言った。  だが、俺は嘘をついた。  あの日に撮ったAさんの写真、実はプリントしておいた。それは今、俺の部屋の、机の引き出しの奥にしまってある。勉強に行きづまった時、それを思い出したように時々見たりしている。  俺はこの写真の中に、本当の彼女を閉じ込めたのだ。  いつかまた(じか)に見てみたいと思わなくもないが、まだ俺にそんな勇気はない。  自分の情けなさには目を(つむ)り、今日も俺は彼女の写真をしばらく眺めた後、それを引き出しの奥にしまって勉強を再開した。 【終】          
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