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目が覚めるとそこには……
そんな物語みたいな始まり方をしてみても、私の日常はいつもと変わらない。ただ学校に行って、ぼーっと授業を聞いて、お弁当を食べる。そして気付いたら、家でまったり。
それだけの日常。
ため息を一つ。ベッドから降りると、柔らかいふわふわの毛の感触が優しく私を包む。直前のため息を、優しくしてくれるスリッパにむけたものみたいに感じた。そのせいか申し訳ない感情に満たされそうで、「あなたの事は大好き」なんて、ぽろぽろと申し訳ない感情を流して溺れないように。
ふわふわの毛が足の裏をくすぐる。こそばゆくて小さな声で笑うと下の階から、「早く朝ご飯食べちゃってよ」とお母さんの声が聞こえて、私とスリッパは一緒に階下へダイブする。着地は任せるよ。
朝ご飯をぺろりと食べ終えると、ちゃっちゃと歯磨きを済ませて、二階へジャンプ。
ウォークインクローゼットに入る。
「制服」
たまには私服で通学とか授業を受けるっていうのも、非日常って感じでいいんじゃないかな。制服に着替えさせられながら、そんな考えが浮かんですぐ弾けて消えた。
通学中もいつもと同じ。丁字路の角でイケメン男子とぶつかって恋が始まるなんてことは起こらない。
雲一つ無い快晴。私の気分とは真逆だなと思っていたら、私の前に影がいくつも落ちてくる。空を横切るペガサスの集団。近くのインターナショナルスクールに通う生徒たちだ。その先には巨大な龍。あれは近くの幼稚園の送迎龍。空から進路に目を向ける。ドギツい原色に彩られたホバーブーツを履いた、近所に住む大学生のお兄さん。
いつもと同じ。
唯一違うのは、私が浮かない顔をしているくらいじゃない?
結局授業も上の空。理科の授業でぼーっとしすぎだとAIに怒られて、クラス中の笑い者にされた。これもいつもの事。
明日が少しでもいつもと違う一日になればいいなと、睡眠導入器のコードを一九五六から一九八四に切り替える。
「おやすみ」
ベッド脇のスリッパが、「おやすみ」というのが聞こえた。
そんな夢を見た。
目が覚めるとそこには……。
そんな物語みたいな始まり方をしてみても、私の日常はいつもと変わらない。目の前に広がるのは、白い病室の天井。
それだけの日常。
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