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「ごめん、貴文。ありがとう」
文句を心の中でボヤきながらも、結局最後まで付き合ってしまうお人好しな自分。
「ん」
「何?」
「ほら、手ぇ貸せ。冷たくなってんだろ。指、真っ赤だぞ」
「え、でも……」
「いいから。ほら」
渋々差し出す彼女の手先をギュッと握った。
俺の指先とは逆にすごく冷え切っている。
「バカだな。こんなになるまでやるなよ」
「だって。ナナカマドの実に雪が積もってくのがさ、見ていて楽しかったんだもん」
「あっそう」
それだけで三十分も待たされたのか。
やれやれ、だ。
「貴文の手、あったかい」
「だろ?感謝しろよ?」
絢香の指を暖めてやる為、コートのポケットに忍ばせたカイロで自分の手を暖めておいたのは秘密だ。
「映画、間に合うかな?」
「バカ、もう始まってるよ。今日は諦めろ。俺の買い物でも付き合え、映画は来週だ」
「ん、わかった」
彼女の視線がまた俺から離れていく。
ああ、クソ。
いつか絶対に超えてやる。
あのナナカマドよりも長く彼女に見詰められるにはにはどうしたらいいのか。
今それが、俺の最重要案件だ。
了
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