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東海岸町
赤いひさしが目印の喫茶店は、海を眺める国道沿いの二階に店舗を構えている。
ビーチラインを抜けて市街に入り、まもなく。ヤシの木の揺れる景色に目が慣れた頃、交差点の丁度分かれ目にその店は建っている。
とはいえ、これは観光客の皆さま向けの案内で、自宅から徒歩三分と言ってしまえば僕にとってはそれまでだった。
とにかくひたすらにナポリタンが美味いこの店を、「灯台下暗し」のスローガンの下、僕はサボりの本拠地として正式に制定していた。
本日もがむしゃらに昼食を堪能したのち、恥も外聞もなくデザートのページなんかを眺めていると、目の前の席の椅子が引かれ、誰かが座る気配がした。
「ジャカランダソーダ」
聞いた事のない楚々とした声に、僕ははっと顔を上げた。
流れるような金髪の少女が、ガラス窓から差し込む真昼の日差しをキラキラと浴びてそこに佇んでいる。
「……お、お嬢さん、」
見知らぬ美少女様に、おそるおそると声を掛けた。
「席を間違えてませんかね」
シロップひとつ、と注文を付け足した指で、彼女は髪をそっと耳にかける。
あくまで清涼少女然とした仕草だが、そうすることで不敵に吊り上がった口元がよく見えた。そして見間違いでなければ、彼女は「プッ」と吹き出した。
「……お嬢さん、だって!」
僕はそこで初めて、ん? と首を傾げた。
困惑顔の僕を見て、美少女はますます機嫌よく肩を揺らす。
「ふふふ……うはははは」
「待てよ、待て待て、その笑い方……見覚えがある、絶対に」
人差し指を噛みながら、必死で思考を巡らせる。そのうち僕は、仲間の一人に金髪頭がいた事を思い出した。そしてその男が、飛び抜けた変人だという事も。
どの段階のレベルの変人かというと、彼の所持品のノートの表紙に「未来人との邂逅その四十五」という文字がチラチラ見え隠れする、大体そんな程度だ。彼の名は……、
「……海光町?」
思い当たった固有名詞を口にすると、金髪サニーガールは満足げに髪をかき上げて、いかにも! と微笑んだ。
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