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「やはり仲間には、すぐにバレてしまうね」
「いや、よっぽど気を付けないと分からないよ。というかなんでまたそんな恰好……」
「盛れてるだろう?」
「盛れてるけれども」
飲み物を運んできた店員に、彼はサービス満点に微笑んだ。
オフショルダーの肩口から、スパークリングを散らしたようなキメの細かい素肌が輝いている。
男子学生らしき店員は、片方の手に持った盆をカタカタと揺らしながら何かに耐えていた。……が、すぐに僕の存在に気付き、びしっと背筋を正してみせる。
なるほど、今の海光町と僕は、海沿いのカフェで待ち合わせた仲睦まじい美男美女のカップルに見えるというわけだ。
「完璧な女装だな」
と、店員が遠のいたところで小声で囁いた。
「無粋な事を言わないでくれよ。これは正真正銘モノホンさ」
「ぎゃ」
僕の手をぐわしと掴むと、海光町は間髪入れず「これ」に思い切り手のひらを押し付けやがった。
この男の考えていることは心の底から理解できないのが常なのだが、ひとまずその一瞬だけは難しいことを考えるのはやめることにした。
巡る宇宙。確かにまったくもって粋なシロモノである。
「嘘偽りない感触だな……、ってことはキミは今、女に姿を変えてるってこと?」
「そもそも我々の生業は、女に姿を変えて接客することだろう? 東海岸町」
「……まぁ、ありていに言えばねぇ……」
「言ってみたよ」
少々の語弊は伴うものの、彼のいう事は事実には違いない。
僕たち、潮騒協同組合の仲間たちは、観光業で生計を立てている。
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