6人が本棚に入れています
本棚に追加
仕事内容は至ってシンプル。朝な夕な交替で、入れ代わり立ち代わり、とある観光名所の番をするのだ。
雇用形態はアルバイト。
十数名程度の人員の僕らを取りまとめる雇用主たる存在は、かの有名な「間貫一」様だ。
ここまで言えばお分かりであろう。
僕たちのアルバイトは、熱海は東海岸町、その国道沿いに佇む熱海温泉郷のランドマーク「貫一お宮の像」のお宮なのである。
そう。銅像というジャンルの肉体労働だ。
僕たちは幻覚でお宮に姿を変え、名所の名に恥じぬよう、観光客の皆さまを全身全霊の固定ポーズでおもてなしする。時給は九六〇円也。
……割に合わない。けれど我々はあまりにもあやふやな存在であるため、この組合で仕事をもらわないことには、暮らしていけないというのが実情なのであった。
先ほどから我々我々と言っているが、では我々とは何なのか。
少なくとも人間ではない。けれど幽霊や妖怪でもない。
しいて名称を付けるというのなら、確かインターネットの片隅の、2000年代に作られたどこかのオタクの超個人的オカルトファンサイトの片隅に、こんな単語が書いてあった。世界中探しても、その四文字はそこにしか見当たらなかったと思う。
泉都幻象―セントゲンショウ―
温泉街の湯けむりが見せる幻や、不思議な現象。
一般的にそれは「のぼせた」というのでは? オカルトマニアの雑記には、そんなコメントがついていた。
それがそういうわけでもない。
それだけではきっと、説明ができない。
最初のコメントを投稿しよう!