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「本当に、信じられない!」
「あははは、面白いわ~」
仕事の合間の昼食タイムに、私は同僚の里香と一緒にカフェに来て、週末の出来事を語った。
「笑いごとじゃないんだけど!」
目の前で笑う同僚に本気で悩んでいることに面白がられ、咎めるような目でにらみつける。
「だってさ、目が覚めたら、沖縄とかさ。本当にありえない日常じゃん。私も1回同じシチュエーションに出くわしたいわ」
「だって、服も着替えさせられて…。これで4回目だよ。週末に目が覚めたら知らない場所にいるの…」
週末のことを思い出し、ため息をつきながらこの1ヶ月を振り返る。
彼と出会ったのは、2ヶ月前。里香が開いた飲み会という名の合コンのときに、彼と気があって何度か会って、1ヶ月前に告白された。別に嫌いではなかったので即オッケーの返事をし、その数日後に合鍵を渡した。
その週末から、彼は金曜日に帰宅し寝ている私をどこか知らぬ場所に連れていく。最初は軽井沢の別荘、次に大阪、名古屋、沖縄と行くところは様々だった。
「結局、楽しんで帰ってくるからいいじゃない」
「でも、お金払わしてくれないし…」
「それだけお金持ちだってことなんだから、出しといてもらえば?彼の仕事とかわかったの?」
「教えてもらえない…」
しかし、私は彼のことで知っていることと言ったら、IT系の会社に勤めていてものすごい金持ちの年下の男性ということだけだ。この前の食事のとき、秘書と思われる人と仕事らしき話をしていたから、会社の幹部クラスの人なのかもしれない。
彼は聞いても何も教えてくれない。
ただ笑って、誤魔化すように私の頭を撫でるだけだ。その態度に内心イラつきながら、流されてしまう自分にも腹がたつ。
「彼自身が答えないんだったら、近しい人に聞いたらいいんじゃない?」
コーヒーを片手に里香は言った。
「近しい人…彼の秘書らしき人に聞くとか」
「そう!それ!」
今後の方針を考え終えて、私は財布からお金をテーブルに置く。
「私、もう行くよ」
「もう?プロジェクトリーダーさんは忙しいわね」
「本当は土日も仕事したいところなんだけど、週末またどこに連れていかれるかわからないし!」
お店を去ろうとする私に、里香はにっこり笑いながら手を振った。
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