本章

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前に正志が何かあった時に連絡するように、秘書の人の連絡先を渡されていた。 平日、正志と食事をする時はいつもこの人が車で迎えにくるのだが、まさか自分から連絡をとるとは思わなかった。 待ち合わせのカフェで明日のプレゼン資料に目を通す。人の気配を感じ、顔を上げると前の席ににっこりと笑った男の人が座っていた。 「び、びっくりした!来ていたのなら、教えていただいてもいいじゃないですか、瀬戸さん」 「すみません。集中なさっていたようなので、声をかけられなかったです」 笑顔を崩さず、年齢不詳の正志の秘書である瀬戸は私に言った。何を考えているかわからない彼は正志の次に厄介な人だと感じている。 「正志は今、仕事ですか」 「はい。正志さまは今出張で名古屋です。正志さまのことで何かご相談とのことでしたが、何でしょうか」 つかさず本題を振られてたじろいだが、彼の奇行について訴えた。 「なぜ、彼は私を寝ている間にどこかに連れていくのか心当たりはありますか」 瀬戸はため息をつき、ゆっくりと頭を下げた。 「申し訳ございません。真由さまにはご迷惑をかけているのは存じています。しかし、正志さまが何もおっしゃっていないのであればお答えできないのです」 「…それもそうですよね。…お時間取らせてしまってすみません」 瀬戸は正志と昔から付き合いだとは聞いていた。だから、聞いてみようと思ったものの、こういう答えが来ることも予想はできていた。 「いいえ。でも、正志さまは真由さまのことを想っていらっしゃいますよ」 「…そうでしょうか。私は彼の行動がよくわかりません。だから…」 私は瀬戸をまっすぐ見つめ返した。 「彼の行動を理解したいのです」 瀬戸は目を丸くした後に、クスリと笑った。 「正志さまはよい方を見つけられたのですね」 「え?」 「では、正志さまを問いただす機会を差し上げましょう」 「…どういうことですか?」 困惑しながら問うと、瀬戸はいつもの笑顔を返した。 「次の週末を楽しみにしていてください」 何か企んでいるように感じたが、瀬戸を信じて次の週末を待つことにした。
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