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ダメだ。
雪の持つ天然の白色には、人工の純白にはないキラキラとした魔力がある。それを切り取りたくて、僕は銀世界の静寂にシャッター音を響かせた。
でも、ダメだ。
僕は大学三年生で、写真部に所属している。
高校の頃に町の写真コンクールで入賞したのがきっかけで、大学を卒業したらプロのカメラマンになりたいなんて夢を持っていたのだけど……。
やはり人生は甘くない。
入賞したのは最初だけ。
大きなコンクールでは鳴かず飛ばずの繰り返しで、カメラへの自信なんてすっかり粉々だ。残ったのは行き場のないフワフワした気持ちだけ。
確認してみれば、さっきの写真も撮りたかった天然の風景とはまるで別物だった。
ため息がこぼれた。
すると、僕のため息を追い越してシャッター音が響く。
彼女だ。
二年生の頃に付き合い始めた同じ写真部の彼女。
最初の頃は、初心者だった彼女に、僕は先輩として色々と教えてあげていたのだけれど……。
彼女のカメラは、どんな風にこの天然風景を切り取ったのだろうか。
彼女には才能があった。
努力家だから、それはどんどんと輝きを増した。
今では僕なんて及びもつかない。
大きなコンクールで入賞するのも時間の問題だろう。
正直、悔しい。上達していく彼女が嬉しそうにするのが、少し複雑でもある。
……ただ、まぁ……、
ふと、あらかた風景を撮り終えた彼女に、僕は静かにレンズを向ける。
ファインダーから目を離し、顔を上げた彼女が僕を見る。
ずり落ちそうな眼鏡。
A「……あれ? 写真に夢中で、…… ワタシ、眼鏡どこにやったっけ?」
B「……天然かよ……」
《カシャ》
どれだけ悔しくても、やっぱり、この天然風景を撮るのは僕が一番でありたいんだよな。
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