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子供は首を横に振るだけでまた何も言わない。小学校や保育園に行くにしてもカバンも持っていない。きっと心細いのだろう。気弱な性格をしており、見知らぬ人間に話かけられてうまく返答できないのだと伍火は思った。
「お母さんはいないのか?」
母親を探そうと振り返ると宙太郎が立っていた。
「うわっ、宙太郎」
「その子には関わらないほうがいいよ」
「しかし、こんな小さい子を放っておくわけには……宙太郎?」
昨日とはうって変わって愛想というものがない。伍火にあんなことを言ってしまった手前、天真爛漫な宙太郎も顔を合わせ辛い、そんな風に伍火は解釈をした。
ふと宙太郎の顔色が悪いことに気がついた。調子を崩しているのだろうかとじっくり観察してしまう。見れば見るほど青白く表情も険しいものであるように思う。
「顔色が悪い」
「あっ……」
うつむき加減の顔をもっとよく見ようと、宙太郎の顎を持ち上げる。指先に感じた宙太郎の体温が尋常でなく冷えていた。
「……冷え切ってるじゃないか」
「別に大丈夫だよ。気づいてないの? その子は」
「おまえが具合悪そうなのは気づいてる」
言ったそばから宙太郎はふらつく。とっさに宙太郎の手首を掴んで引き寄せた。宙太郎は伍火の胸に力なく収まった。
「はあ、ったく、学校の保健室行くぞ」
「保健室に行ったところで何も解決しないよ。僕、妖怪だし」
「ならオレの家に来い」
「え?」
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