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いつもの登校風景が昨日までと違って見える。ひょっとしたらあのおばさんも実は妖怪なんじゃないか、あのサラリーマンもそうなんじゃないか。疑い始めたらキリがないというが本当にその通りだった。
宙太郎のほかにも、クラスの中にそんな存在が潜んでいるのではないだろうか。そんなことになったら……。
「そんなに特別なことだろうか」
伍火は自分に向かって言った。
今まで知らなかった存在を知り、それを意識するようになっただけのことじゃないか。
それは肉眼で見ることができない細菌を電子顕微鏡で覗きこんだのと同じようなものだ。
細菌は人を病気にしたり死に追いやったりするものだと一般的には思われている。しかしそうじゃない。人に害を為す細菌をウィルスと呼び、ビフィズス菌のように人体とうまく共存できるものを細菌と呼ぶ。
妖怪も細菌のように人間とうまく共存できるヤツらがいる。全てを邪険に扱う必要はない。
「だから祖母ちゃんは退治する側から治療する側に身を転じたんだ」
伍火が自分のルーツに力をもらった瞬間だった。
妖怪の薬師とは興味深い仕事だ。そんな風に思うなど楽観的すぎるかなんて考え事をしながら歩いていた。すると、学校付近の歩道で小さい子供とぶつかった。
「ごめんな、大丈夫だったか」
子供は言葉を発することなく、表情もなく伍火を見つめている。
「こんな所でどうしたんだ? 学校は?」
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