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伍火はスマートフォンを取り出し、学校へと電話した。宙太郎の具合の悪さを説明し、送っていくことを告げる。ついでに迷子の子供を警察に送り届けることも伝えた。担任の先生は「もりだくさんだな」と驚いていたが、普段から教師陣の信頼を得ている伍火を疑うことなく、宙太郎を頼むと言ってくれた。真面目に学校生活を送っておいてよかった。そう思いながらスマートフォンをカバンに投げ入れた。
「あれ? あの子は?」
宙太郎は首を横に振って「帰ったよ」とだけ教えてくれた。
「なんだ、母親のとこに戻ったのか」
「今度あの子に会っても関わっちゃダメだよ。あれはよくないものだった」
「よくないもの?」
話をしている間もどんどん宙太郎の顔色が悪くなってくる。こんな所で立ち話している場合ではないと、有無を言わさず宙太郎を姫抱きし、スタスタと歩き出した。
「ちょっと! こんなの放っておけば大丈夫だよ」
「多分、無理」
「無理って?」
「血筋的つか、目の前で苦しんでる奴がいたら、オレは放っておけない」
「でもコレは恥ずかしいよっ」
人目を考えると確かにそうかと、宙太郎をいったん降ろしてやった。伍火は宙太郎の前に屈みこんだ。
「ほら、早くしろ」
「う、うん……」
伍火の背中に乗ることを要求されているのだと悟った宙太郎は、渋々という感じでおんぶされた。伍火の耳元で小さく「よろしくお願いします」と声が聞こえた。
「社会科資料室ではあんなに大胆だったのに」
「だって……」
「おまえって、実は人に頼るのが苦手なんだな」
「……」
宙太郎の返事はなかった。
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