Chapter3

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 宙太郎が言った。あの妖怪は伍火が己の存在を知るものだと認知してしまった。だから伍火をターゲットにしている。そんなふうに説明してくれた。 「不用意に関わった貴様が悪い」 「見ただけだろ」 「はぁ、絹代殿は何も教えておられなかったのだな」  ゆらり。目の前の異形は、人の形から黒いモヤに変化していく。実体が曖昧になり、不気味さを増していく。  身構えた明人の手には文字の書かれた紙切れが握られていた。胸の辺りで十字を切り、伍火達には聞こえないような声音で呪文を唱えている。 「散れ!」  明人が声を上げ紙切れを投げる。紙切れは網状に姿を変え、異形の頭上に広がる。 「捕縛(ほばく)!」  異形が紙の網に縛られる。網の隙間からいくつもの顔のようなものが見えている。そのグロテスクなありさまが、伍火には心底気味が悪く、少しだけ哀れだった。  散らばったガラス片、その上に立ち痛みの表情も何もわからない黒い人型。その異形は黒いモヤが流動しつつ人の形を成している。桐宮明人、二葉そして伍火と宙太郎は緊張感を保ちつつ身構えた。 「宙太郎様に手出しはさせません!」  言うが早いか二葉が異形の前に躍り出た。 「余計なことはするな!」  攻撃の算段を整えようとしていた明人が二葉を怒鳴りつけた。 「なっ、非力な人間のくせに!」     
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