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伍火への勧誘が一筋縄ではいかないと悟った明人は、再び窓から姿を消してしまった。台風一過。時間にすれば一時間もないほどだったが、いろいろなことが起こって伍火の情報処理能力は限界に到達しそうだった。
「なっ……んだったんだ」
幸夫を階下へ運ぼうとしている伍火と宙太郎の前に今度は二葉が立ちはだかる。
「はぁ、まだコイツもいたんだった」
「コイツとはなんだ! 人間め!」
「二葉!」
「宙太郎様、早く戻りましょう」
宙太郎は子供のようにゆっくり「イ・ヤ・だ!」と首を振った。二葉はますます怒り心頭で伍火をねめつける。
「コイツは陰陽師の孫なんですよ! しかも黒神絹代の!」
「でも僕は伍火の傍に居たい! 人間も妖怪も関係ないよ!」
宙太郎はモフモフの尻尾で伍火の腰をペシと軽く叩き、同意を認めるように促してくる。伍火の家に居るからといって身の安全が保障できるわけではない。それならば仲間の元に帰したほうがよい。伍火はとりあえず幸夫から離れ、宙太郎の首根っこを猫のように掴んだ。そのまま二葉に差し出す。
「いやーん、帰らない!」
「子供のような駄々をこねるな!」
「ああああ、宙太郎様! もっと丁寧に扱いなさい! 人間め!」
二葉は宙太郎をひったくるように抱きとめた。じたばた暴れる宙太郎を小脇に抱え、目にも止まらぬ早業で窓から出ていった。
「いや、おまえも丁寧に扱えよ……」
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